「イギリスと移民問題」の矛盾点を晴らす!

国際
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イギリス移民問題についての2つの記事を比べてみたら矛盾が⋯

 2016年6月、イギリスで国民投票が行われ、EU離脱派が勝利しました。
この結果を受け、EU離脱の争点である移民問題に深く切り込む記事が2つネット上に挙がりました。

両記事を比べてみると、EUからイギリスへやってくる移民、いわゆるEU移民の捉え方について2つの矛盾が生じています。
矛盾とは⋯
① イギリスが行うEU移民に対しての人数管理はザルなのか、それとも万全なのか
② EUからの移民は実際にイギリス人の仕事を奪っているのか、それとも空いた職を埋めてくれているのか
この2つは大きな争点だったにも関わらず、白黒つかないまま投票が終わり、その後に出た両記事においても解決されていません。
今回はこの2つの矛盾に焦点を当てて、晴らしてしまいましょう。

矛盾① イギリスが行うEU移民に対しての人数管理はザルなのか、それとも万全なのか

 イギリスには2006~2014年の9年間に160万人のEU市民が入国しており、計算上は1日に500人
が流入しています。
EU市民に限らず、現在イギリス国内の移民の割合は全人口の13%を占めるので、道行く10人のうち1人はイギリス出身者ではないことになります。

A記事によれば、
・イギリスはEU域内をパスポートなしで行き来できるようにする「シェンゲン協定」には入っていないので、EUに入っているから他のEU諸国から移民が何の管理もなく自由にジャンジャン流入しているというのは被害妄想。
・EU域内出身者には域外出身者にはない「就労の自由」や社会保障の権利などが認められているが、今までもこれからもEU域内・域外出身を問わず出入国管理はしっかり行われる。
とあり、イギリスへの移民の人数管理は行き届いていることになっています。

一方でB記事によれば、
・EUは域内の国籍を持った人なら、どの加盟国に住んでも働いてもいいよ、ビザは要りませんよというルールを決めたので勝手に人数制限したらEUに怒られる。
・EU加盟国を東ヨーロッパの国にも拡大したら、貧乏な国から裕福な先進国への大量移動が起きた。
とし、EU域内からの移民の大量流入には歯止めが効いていないと述べています。

イギリスは、移民の流入数をどのようにコントロールしているのでしょうか?

この議論では、シェンゲン協定とEU法の2つがポイントになります。

まずシェンゲン協定は、加盟国間で人が移動しようとするときのパスポート・ビザ審査を撤廃しています。
パスポート審査をなくせばヒトとモノの移動が早くなって経済が発展する、という考えのもとに、EU加盟国は殆どの国がこの協定に加盟しています。
この協定では他に、警察データベースを共有することなどが取り決められています。

次にEU法ですが、EUは人の移動の自由を保障しており、EU域内出身者であれば域内のどの国にも自由に移動できます。
この決まりは全てのEU加盟国の国内法よりも強力なので、どれほど発言力がある国でも、域内から流入する人数を制限することはできません。

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イギリスと2つの取り決めとの関係を確認しましょう。
まず、イギリスはシェンゲン協定について警察データベースの共有等には同意していますが、パスポート審査の撤廃には同意していません。
ですから入国希望者が指名手配犯であったり盗難パスポートを使っていたりすれば、パスポート審査の段階で入国を拒むことができます。

その反面、人の移動の自由を保障するEU法の決まりがあるので、イギリスは合法なパスポートをもつEU域内出身者の入国を拒むことはできません。

<まとめ>
制度上、イギリスはEU域内からの入国者に対しては人数制限ができないので、イギリスがEUに留まる限り、EU市民の大量流入は止まらなそうです。

矛盾② EU移民はイギリス人の雇用を奪っているのか、空いた職を埋めているのか

「EU移民がイギリス人の雇用を奪っている」という説は離脱派が声高に主張していました。
実際に奪っているのであれば、イギリス人が離脱に投票するのも理解できますが、奪っていなければ単なる言いがかりです。
A記事によると、
・EU移民の多くは、地元のイギリス人がいずれにせよ就きたくないような農業、建設業、清掃業、介護、自営業(エスニック、スーパー)で働いている。
・仮にイギリスがEUから離脱してEU移民が全員いなくなっても、地元民が就きたいと思っている「良い」仕事が突然空くわけではない。

とし、EUからの移民はイギリス人が好んでやらないような仕事を代わりにやってくれているので、イギリス人の雇用を奪ってはいないと主張します。

B記事は、
・東欧のブルガリアとルーマニアの平均月収は4~6万円なのに対して、イギリスでは最低賃金で働いても月に25万円くらいは稼げる。
・最低賃金かそれ以下の額でも、喜んで働く東欧からの移民を雇う雇用主が増え、賃金が下がった。
・地元のイギリス人は最低賃金では生活できないので職が見つからず、引き換えにどんどん移民労働者が増えた。

とし、賃金の低下によりイギリス人の雇用が奪われるという事例を挙げています。

実際、EU移民の就職状況はどうなっているのでしょうか。

現地メディアにリークされた政府統計によると、
・去年イギリスでは労働人口が45万人増加したが、そのうちEU移民は75%を占めており、就職に成功した4人のうち3人はEU移民である。
・東欧からの移民は大半が大卒者だが、そのうち6割は、イギリス人全体の7割を占める高卒程度の学歴の人々が就くような、農業や建設業などの低賃金労働に留まっている。

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とあり、データ上、EU移民がイギリス人に比べて不人気な低賃金労働に就きやすい現地の状況が見えてきます。
<まとめ>
低賃金でも喜んで働く大卒の移民が不人気な職業に留まっているとすれば、その不人気な職業にさえ満足に就職できない高卒程度のイギリス人たちが、移民に自らの職が奪われていると感じるのにも頷けます。

結論

冒頭に挙げた2つの矛盾は制度と数字の確認によって晴れました。
イギリス人が離脱に投票するだけの根拠は存在しており、EUから離脱すれば状況は改善すると考えた人が国民の過半数を占めた、という結論になります。

ただ、離脱すればイギリスの問題が全て解決するわけではありませんし、そもそも国民投票の結果は、効果としてはアンケート結果のようなものに過ぎません。
結局はイギリス政府がEU離脱問題も含め、今後どのように国政を練っていくかが重要になっていく、というのが適切な見方と言えます。

比較した記事
A:「移民・難民の大量受け入れに反発してイギリスがEU離脱した」の「ウソ」

B:イギリスがEU離脱した理由

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